川上未映子

未映子情報

2017.04.25

みみずくは黄昏に飛びたってどこいくん

mimizuku『みみずくは黄昏に飛びたつ──川上未映子 訊く、村上春樹 語る──』が刊行されます。
 わたしによる村上春樹ロングロング・インタビューでして、4日間、十数時間にわたって行ったものを収録しました。 村上さんの新作長編『騎士団長殺し』を中心にしたインタビューというかたちで始まったのだけれど、結果的に作品を通して村上さんの全仕事をめぐりにめぐる内容になりました。

 2015年に一度、柴田元幸さん責任編集の『MONKEY』誌上で、このときは村上さんの『職業としての小説家』にかんするインタビューをさせていただいたのですが、「このようにインタビューするのは一度きり」と思っていたので、網羅的&駆け足的にぎゅぎゅっと凝縮した内容でした。それで今回の語り下ろしというかインタビュー下ろしの部分はそこからさらにさらに分け入って、しぶとくしつこく、ぬらぬらと、あれもこれもみっちりふんだんに村上さんにお話を伺うことができました。

 ご存知のように、村上さんはこれまでたくさんエッセイを書かれ、また数え切れないほど取材を受けてそれが一冊になっていたり、また、『村上さんのところ』のように読者のみなさんからじかに質問を受け取って回答されていたりして「ここに、わたしがいったい新しく何をぶっこめると言うのだろう……」という懸念もあったのですが、終わってみると、ここでしか読めない一冊に仕上がったのではないかと、そう感じています。

 ちなみにタイトルはわたしが考えたのですが、ベースはもちろんヘーゲルのミネルヴァの梟で、今回『騎士団長殺し』にみみずくが出てくるので、合体しました。みみずく、かわいいですよね。梟と何が違うのかというと、みみずくには耳がついているのだと。木菟。木にいるうさぎってことでなるほど漢字もすごくかわいい。秋にゲラをちょうだいして読んでから、ずっとみみずくがわたしの頭の中にあったので、みみずくをタイトルにつけることができて本当にうれしい。そして今回は、なんとKindle版も同時発売。紙で、電子で、お好きなほうでぜひぜひお読みくださいませな。

2017.04.17

「声のライブラリー」で朗読の、春と夏のあいだ

 「若いとき、桜は大変なものだった。今でもその理由はわかるけど、しかしこのあいだ猛烈に咲く桜の樹の下を車でくぐり抜けたとき、やられる感じはもうしなかった。この花の、どうもこの世のものではないような雰囲気を、時間の柔らかな底をすっかりさらって胸にそっくり移し変えるその手つきを、今やわたしは堂々と無視し、そしてうたた寝さえしてみせたのだ」

  これは去年の今頃に書いたものだけれど今年は自分がうたた寝をしたことにも気づかない。桜は一年ごとに記憶と見分けがつかなくなってゆく、来年はもっと遠くなり、やがてそれが誰の記憶であるのかも問わずに流れてゆくんだろう。桜とわたしの距離がそんなふうに膨らむのに任せていたら、町にひとつだけ咲いている立派な桜の樹の下で交通事故に遭ってしまった。体は無事、心も無事、桜はもっと静かに無事(自転車は廃車)。

  こちらに出演します、これまで刊行した2冊の詩集『先端で、さすわさされるわ そらええわ』『水瓶』のなかから読みたいと思います、でも不思議、いまだに朗読ってほんとに不思議。何をしているのかがわからないからそれも合わせて楽しみにしています。お申込み方法がちょっとお手間ですけれど、みなさまふるって、どうぞよろしくお願いします。

おかげさまで定員に達しましたため、応募を締め切らせていただきます。ありがとうございます。当日を楽しみにしています!

第89回「声のライブラリー」
自作朗読と座談会
2017年5月13日(土) 2:00~4:00
会場 日本近代文学館 ホール
司会:伊藤比呂美氏。平田俊子氏、川上未映子。
参加料2100円(学生1600円)。先着80人。
申込方法はこちらのページでご覧ください。

2017.02.21

「女の子、登場」の登場

ワコール「ウンナナクール」のコンセプト&コピーを作りました。

アート・デレクションは「れもんらいふ」の千原徹也さん、イラストレーションはエド・ツワキさん、そしてモデルはペティート・メラーさんです。

新しく変わるウンナナクールのコンセプトを、と今回ご依頼をいただいたとき、

女の子の、女性の、体とか気持ちとかぜんぶひっくるめたものをとにかく肯定できるようなものにしたいと思いました。

「女の子の人生を応援する」、これからのウンナナクールのテーマです。

ポスターはもちろん、フィッティングルームの壁でも文章が読めたり店頭ではクリアファイルやポストカードなども展開していますので、ぜひ足をお運びくださいませな。

 

 

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2017.01.13

短編小説「シャンデリア」を書きました

 

 みなさまあけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いします。わたしは年末も年始もないような状態で、まず第一に牡蠣にあたって地獄のクリスマスイブとクリスマス、過去にあたったのは牛肉のたたきで忘れもしない17歳のとき。二度とごめんだと思っていたけれど二十年後にかたちを変えてやってきた。牡蠣、大好きな牡蠣・生牡蠣。つるんとしててさあ、最高だよね。

 

 しかしほんとに辛かった。でも当然のことながら牡蠣を恨む気にはならないしなれない、これまでいい夢みさせてもらったのだもの。そしてきっとまたつるつると食べるような気がする。しかしこれって花粉とおなじ原理なのだろうか。つまり花粉というのは個人に花粉リミットみたいなものがあってそれがフルになると花粉症を発生すると。牡蠣もおなじなのだろうか。つまりわたしの牡蠣リミットはすでにいっぱいになってしまったのだろうかとかそういうこと。

 

 そして小説を書きました。短編小説で「シャンデリア」といいます。いつか書いておかねばと思っていた買い物小説というかデパート小説で、50枚くらいです。そして今回はデジタル配信というか、kindle single というかたちで発表することになりました。みなさんどうぞお読みくださいませな。しかし、大好きなデパートについて書き始めたのだけれど、なぜ、いつも、このような展開になってしまうのだろうかわからない。デパートだっつうんで色んなブランドがたくさん出てくるのだけれど、しかしこの小説の情熱の核は何と言ってもトム・フォードのアイシャドウ「ココア・ミラージュ」なんである。かつてこんなに、よくもまあこんなに素晴らしいアイシャドウがあっただろうかと思う真に素晴らしい逸品なんである、って何のことかわかりませんよね……どんな小説なのか続きはどうぞ本編で、よろしくお願いしまーす。

 こちらからよろしくお願いいたしまーす。

 

※「シャンデリア」は『ウィステリアと三人の女たち』にも収録されました。

 

 

 そして、年末から、またもや「日経Dual」でエッセイ「びんづめ日記2」の連載が始まっております!そしてご挨拶が遅れましたが、長らく連載してまいりました週刊新潮の「オモロマンティック・ボム!」も無事に完結し、このふたつに関しましてもまた、改めてご挨拶をば!

 

2016.09.21

トークショウ@渋谷マークシティ

 今年の夏は雨と台風でいっぱいだったようなそんな日々が過ぎて気がつくと秋、ニットかねそろそろ。

 近づいてきたのでお知らせします、みなさまにお会いできるのを楽しみにしています。ファッションについてやし、何きていこ。なお今回のイベントは無料になっておりますので、みなさまふるってー。

 

川上未映子スペシャルトークイベント
2016年10月1日(土)16:00~16:40
渋谷マークシティ 1F イベントスクエア

2016.09.13

世界の秘密に指がふれたり

 

 SWITCHインタビュー・達人達、新海誠さんとの対談をたくさんの方に観ていただけたようでうれしかったです。わたしはばたばたとしていて未見なので対話のどこがどんなふうに使われたのかわからないのだけれど、『いい雲はどのようにして生まれるか』、『ここではない、もうひとつの世界が存在しているという実感』のお話がとくに印象深くて、でもどっちもあんまり時間がなくて、もっとお話を伺いたかったんだけれど……。

 

 映画であれ小説であれ写真であれ何であれ、優れた作品には必ずフィクションとしての強度が最大限に発揮される、その作品に固有の瞬間がある。『君の名は。』には、見終わったあとに「もしかしたら、自分のこの現実の人生にも、あの映画の中で起きていたようなことが、本当は起きているのかもしれない」と思わせる不安と恍惚の手触りがあるんですよね。

 

 つまり、今、自分が誰かといるとして、あるいは誰かといないとして、その誰かとのあいだに──三葉と瀧くんのあいだで起きたようなことがもしかしたら起きていたのかもしれない、我々はそのことを確認する術をついぞ持たないけれど、でもそれがなかったなんていったい誰に言えるのか、というような  ”そわそわ” を、言葉にしてもしなくても、受け取るんだと思います。フィクションと現実の結び目は作品の数だけ、人の数だけあるけれど、その実感こそが、現実の一回性を否応なく生きるしかない我々が飽きもせずフィクションを求める理由のひとつではないかと、そんなことをあらためて思いました。確かめることはできないけれど、それでもやっぱり世界の秘密に指先が少しふれたような、一瞬だけ横切るその影を認めたような、そんな瞬間がこれ以上はない物語のピークで炸裂していて、素晴らしいことだと思いました。

 

 人がある作品に出会うとき──そこには作品と自分以外の多くのものが立ち会うわけで、何歳で、どんなことが苦しくて、どんなことが不安で、どんな場所をふうに歩いていたか、どんなふうに風が吹いて、何がどんなふうに光ったり光らなかったりしていたか、何が遠くて、なにをさわって、何を感じていたか──何年も時間が経って、もしその作品と再会することがあるならばそのとき、それらがひとつのかたまりとなって、匂いとも思いとも記憶ともいえないような「体験」として、またその人にやってくる。

 

 今、十代、二十代の方々に『君の名は。』がすごくたくさん観られていると伺って、いつかずっとさき、彼らのなかで、時空をひょいっと飛び越えて、いつも何度でもふれることのできる特別な体験として保存されればいいな、素晴らしいことだな、と心から思っています(わたしの場合は、その筆頭はもちろん銀色夏生さんなのですが(笑)詳しくは、わたしが銀色夏生さんについて熱く語っている穂村弘さんとの対談『たましいのふたりごと』をお読みください!)

 

 とまれ、たとえば少年少女が出てくる 『あこがれ』『ヘヴン』が、もしそのような体験として誰かのなかに残るのだとしたらそれは本当にうれしいことよなあ……みたいなことをしんしんと感じつつ、次回作も一生懸命、書いて書いて、かたちにしていきたいと思います。がんばります。

 

 再放送は、9月15日木曜 午前0時(9月14日水曜深夜)だそうです!

 見逃されたかたはぜひ、ご覧になってくださいね!……しかし、初めてお会いした新海誠さん、何が驚いたって、ちょっと驚くぐらい人格というかそれこそ精神というかが安定していらっしゃる感じがすごくして、後日もその印象について考えていました。それで、「新海監督、パイロット感あるな……」と。機長です。わたしは飛行機が苦手なんですが、新海さんみたいなパイロットだったらもうしょうがないかな、と思わざるをえないような、それはもう破格の安定ぶりでいらっしゃいました。あとやっぱり医者ですね。しかも、現実に存在している医者よりも医者らしいというか、もはや概念上の医者というか。またお目にかかりたいです。

 

 

2016.09.08

試す

 

 

本を試す。つめを試す。それから水曜日をうんと試して、まぶたのうえのくせ毛も試す。ペンを試して、鏡を試す。約束を試して、全音符をしつこく試して、牛乳の薄い膜まで何度も試す。帯を試して、帽子を試す。取っ手を試す、襟足とアキレス腱と誤字脱字と十二歳の夏を試して、書き置きを試してドアを試す。腰を試して抱きしめを試して唇からでてくる言葉を試す、すごく試す、写真を試して嘘を試して、それからまた抱きしめを試してふたりきりで泣くのを試す。死んでしまった悦びを試して虹を試して銀行を試して薄暮を試してハンガー、まくりあげたそで、シーツの冷たくなった場所を試して遡ることを試してみる。わたしの知らないあなたのこれまでの時間の縫いかたのぜんぶを試す、匂いを試す、やさしかった昼寝を試してゆるしを試して笑顔を試す、それからまた抱きしめを試して接吻を試す、ああ接吻を試す。五年のあいだ試しつづけて、いちばん最後に別れを試す。

 

  *

うえの「試す」はわたしの詩で、もちろんノラとは関係ないけれど、しかしどこかで何かが繋がっているような気がしないでもない、2016年・夏と秋の境目なのだった。というわけで、ノラ・ジョーンズの新しいアルバム『Day Breaks』を訳しました。楽しかった。ぜひ聴いてみてくださいませな。

 

2016.04.22

大切なことについて話す初夏

 

 

 懸念していたこと、思いもよらないことがつづけさまに起きてしまう、まったくなんという年なのだろう。いつまでくりかえすのだろう。九州地震で被害に遭われたみなさま、お見舞い申し上げます。今も避難所で不安な日々を送っていらっしゃるみなさまが一日も早く穏やかな時間を取り戻されますように。心からお祈りいたします。

 

 非常時への対応がもちろん最優先となるのですが、日常の問題も待ってはくれず、こんなときでさえ同時に考えなくてはなりません。

 来月、こちらに参加することになりました。

  いま保育園や育児をめぐって社会で問題になっているさまざまについて、そもそも何が問題なのか、その問題を解決するにはどうしたらよいのか。わたしたちの日常と政治のつなぎめを確認し、子育てに関係ある人もそうでない人も一緒に考え、そして話し合える場になりますように。みなさま、ぜひ参加してください。

 

 「保育園落ちた!選挙攻略法2016」

日時:2016年5月22日(日)13:00ー15:30
場所:上智大学四谷キャンパス2号館4階 401教室
チケット購入要:1148円(資料代1000円+Peatix手数料148円)
http://hoikuen-senkyo.peatix.com
(Peatixというサイトを通じて、チケットを購入いただく必要があります)
※先着35名まで託児有・無料、託児申込は5/12まで!
詳細は以下からお願いします!

FBイベントページ

チケット購入ページ

 

2016.04.12

春だった

 

 昨日の寒さにはびっくりしたけれどしかしたしかに春だった。ここ10日間ほどわりにひどい風邪をひいていて、治ったかなと思ったらぶり返し、それもおさまったかなと思ったら巻き返し、みたいな感じでじつに冴えない日々なのだった。しかしわたしの冴えなさをこころゆくまで楽しむ、ということはわたしの人生においてもう許されないのであって、難儀なことです。

 

 ただいま発売中の『Frau』5月号に、1万字インタビューが掲載されています!すごいヴォリューム、そしてポートレイトも載っております。ぜひ、お手にとってお読みくださいませ。

 

 そしてただいま発売中の『文學界』は新人賞発表号です。受賞作は渡辺勝也氏『人生のアルバム』、砂川文次氏『市街戦』。おめでとうございます。同号に、選評が掲載されています。

 

 先日、拙作『あこがれ』が、第一回渡辺淳一文学賞を受賞して、そのお祝いのお花が家にあふれていてわたしは本当にうれしい。なんという花のかわいさだろう。胡蝶蘭、ばら、ユリ、なにもかも。こうしてお花が盛り盛りと家に届くと十日間ほど至福の時間を過ごせるのだけれど、しかしみながいっせいに枯れてゆくさまはそれはそれでけっこう淋しいんですよね……写真は、大好きなル・ベスベさんのアレンジメント……!

 

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  そして映画『グレムリン』のご存知ギズモ……!知らないうちにこの映画が大好きな息子が撮っていました。ところでこのギズモって壮絶な絶壁頭で、撫でてると他人事と思えないんだよね。今度横から撮ってみます。

 

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 若いとき、桜は大変なものだった。今でもその理由はわかるけど、しかしこのあいだ猛烈に咲く桜の樹の下を車でくぐり抜けたとき、やられる感じはもうしなかった。この花の、どうもこの世のものではないような雰囲気を、時間の柔らかな底をすっかりさらって胸にそっくり移し変えるその手つきを、今やわたしは堂々と無視し、そしてうたた寝さえしてみせたのだ。

 

2016.03.25

春の登場、「おめかしの引力」と「安心毛布」

 

 すっかり春なのに少しさむい春の真んなかに、しゃがんでいるあの子の名前は何度きいても忘れてしまう、匂い編む、きみ沈む、そうしてるまにやってくる熱それは手紙それは挨拶それはお別れ、春のひとふれ、みなさまいかがお過ごしですか。

 さて、朝日新聞で6年間、連載しておりましたファッションについてのコラム『おめかしの引力』が単行本になって刊行されました、わーい。見てくださいませや、この装幀……吉田ユニさんが作ってくださったこの色、この引力、このムード……裏もとっても素敵なイメージで、ぜひお手にとってごらんくださいませな。

 

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 連載『おめかしの引力』では毎回、おめかしにまつわるあれこれについて書いてきたのですが、そのなかで言及したものの写真……フリルとかパフとか靴とかコルセットとか、70年代ファッションが流行った20歳前後めっさがんばってたけど完全に空まわってる当時の写真とか、20年着てる寝間着とか……そういうの載せたらにぎやかでええんとちやうの、ということで、写真に解説もついたりなんかして、たっぷり8ページにわたって載っております。どうぞ、よろしくお願いします!

 

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 そしてそして、エッセイ『安心毛布』が文庫化されて再登場!シリーズ完結編がついに文庫になって、これで本当の完結的な。読みかえしてみて時が見えたわ……装幀は、単行本&文庫本、計6冊すべてを担当してくださった、浜田武士さんです。見てくださいませや……このバランス、このクールさ、目次に喚起されるものってありますよね。懐かしいし、またいつかもどりたい場所みたいでもあって、ゆれることです。手のひらサイズの安心毛布、どうぞよろしくお願いします、これであなたも安心毛布ァー。

 

 

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 目にたまるもの覚えて朝、指先ぐるぐるまわしたら春、からまって

 

 

 


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