川上未映子

2014.05.20

ところでパリでのお買い物

 朝日新聞で7年も連載していたファッションにかんするコラム「おめかしの引力」も今年になって終わり、や、べつにその連載があったから買い物をしていたというわけでもないのだけれど、もう今年は買い物するのやめよう……だって服も靴も増えるいっぽうやし、かといっていろいろをちゃんと整理するための時間も根気もないわけで、そんなふうに言い聞かせてわたしはこの春を迎えたのだけれど、なぜそうなってしまうのか……外出すればいつもいつも買い物をしてしまう。何かしらを買っている。や、そのすべてが本当に欲しいものなのだけれど。そしておかしなことを言うようだけれど、これは本当のことなんだけど、しかしクロゼットをひらいてみても、なぜかあした着る服がない。こんなに服がたくさんあるのに、いったいどうなってるんだろう! 悩んだすえに数年前に買ったのとかをクロゼットからひっぱりだして見慣れたような組み合わせを着るというような、もうわけのわからない具合になっています。

 で、「ぜったい買い物なんかしませんえ。まじで、とくに、自分のものは」と決心してパリに到着して、二日目まではそれを守った(体調もあんまりよくなかったし)。

 しかし、つぎの日、お昼に日本食&おそばを食べたらなんかテンションがあがってしまって、ふらっと入った子ども靴店に入るやその可愛らしさに圧倒され、「や、そうはいっても靴は要るしなあ……」などとつぶやき、そしてボンポワンに行くや伊勢丹や二子玉高島屋の店舗を6〜7っつくらいくっつけたようなその大きさに「!」っとなり、そこから何かがおかしくなって(いつもの調子になって?)、買うつもりのないもの、想定外のものばかりをいろいろ買ってしまった(そもそも何も買う予定ではなかったのだ)。

 たとえばわたしはエディ・スリマンの愛用者でもなんでもないけれど、あべちゃんの買い物にサンローランについていって待っているあいだ、感じのよい店員さんと話しつつ、「……そういや日本では完売やったトレンチの36とかってあったりするのかしらん……ま、ないよなあ、あっても関係ないしなあ……」と何となく思ってしまい、そして何となくきいてみたら「ある」というのでこれも何となく着させてもらうと、なんかすごくいいような感じがして(そしてその日が寒かったってこともじゅうぶんあると思う)、そして手に入りにくいとなるときらめきはいっそうきわだってしまってうれしくなって、そしてそのすごく感じのいい店員さんがそのときにさらりと赤のバッグを持ってきてくれてそれがなんともタイミングがよくてそのこともなんだかうれしくて、おまえうれしかったら何でもいいんかというようなあんばいだけれども、けっきょくそのふたつを購入。

 しかしこれは衝動買いというほどの衝動買いではなく、去年から使ってる黒のバッグの色違いで、まーなんというのか、これが本当にまじで感動的なほどに使い心地がよくて、フェミニンなかっこうにも激オフのときにもかっちりのときでも、とにかく、いかなる! いかなるかっこうのときでも似合ってしまう、魔法のように優れたバッグであるのだった。去年はずっとこのバッグを使いながら「……エディ・スリマンって本当の天才なんじゃないんだろうかぶつぶつぶつ……」とまじでひとりごとのようにつぶやいてしまうほどで、とにかくふたつをまんべんなく持ってバッグの寿命を二倍に伸ばし、長く使ってやろうという魂胆(と言いつつほとんど外出しないのだけれども)。
 

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花がらのワンピースなどに合わせるとそれだけで秋は余計なこと何も考えずとも生きて行けるような気がするトレンチコート。軽くてよさげ。

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 こちらは息子の靴たち。ぜんぶサイズがちょっと大きいんだけれど、このサイズしかなかったのよね。履けるようになるのは来年の夏でしょうか。
 

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 ほいでこれはふらりと入ったお店で見つけたポエット・セーター。カシミア&ウールでちくちくもせず着せやすそう。なにしろ、ポエット! 一目惚れで、2歳用のと4歳用のを購入。大人用もあればいいのに思ったけれどしかし子どもだからいいような気もする。
 

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 パリのボンポワンは大きさはもちろん東京とは違う品揃えでみてるだけで楽しいけれど(わたしは似合わないので着ないけれど)、息子の洋服のほかには何といっても靴下を購入。子ども用にしては高いけれど、しかしこれが使ってみるとどれだけ洗濯機&乾燥機で無頓着に洗いに洗って洗おうとも、これがもうぜんぜんへこたれないのである! 一年中、毎日履いて洗っても色褪せもせず、かたちも崩れず、つねにしっかりとしていて、なにしろ現在、履かせようとするたびに20分とか余裕でかかるイヤイヤ期のまっさかりである。「時間ないよ、はよ履きなよ!」「ヤ!」「履くといいことあるよ、履きなよ!」「ヤ!」「履くと楽しいから履いてみなよ!」「ヤ!」「じゃあもういいよ、はだしで行きなよ!」「ヤ!」……毎朝のこんなやりとりに放っておくとだだ下がりに下がってゆくこちらのテンションをボンポワンの靴下は食い止め、そして気持ちをあげてくれるのである! もちろんやっぱりそもそもの色もいいし、なによりも丈夫にできていて、ほんとうに重宝しています。そしてほかにはぬいぐるみ。息子がまだ赤ちゃんだったときから見つけたら一匹ずつ家に連れてかえってきた猫シリーズで、今回は豹がらの子がいたので仲間入り。
 

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 ほかにはKENZO、V&R、セルジオ・ロッシ(マノロはなかった!)etc、そしてセントジェームスの欲しかったボーダー・カットソーはすべて売り切れだったけれど、しっかし何がもう今年は買い物しやんだよ、けっきょくはあいかわらずの呆れた展開に無言になりながら、しかし多分に漏れずパリは買い物的にちょっとやばいなと思える街であるのだった。空のスーツケースを用意してでかけたという知人の話を何の感慨もなく聞き流していたけれどその気持ちがちょっとわかる買い物の楽しさで、時間があったらヴィンテージのワンピースもみてまわりたかった。買い物って楽しいよなあ、すっごい、楽しいよなあ……でもこの楽しさっていったいなんなのだろう……と、わたしのなかのどこかの部が冷静になろうとするのを「そう、わたしはお酒も飲まないしごはんだって何でもいいし、倒れるなら着倒れで、いいよね!!」と妙なテンションでさえぎりつつも、しかしすぐあとでやってくるトカトントンには要注意、なのだった。