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2010.01.29
サリンジャー死去
例えばレストランでイライラしながらスノッブな彼氏に向かってフラニー
「ちゃうねん。張り合うのが怖いんじゃなくて、その反対やねん、わからんかなあ。むしろ、張り合ってしまいそうなんが、怖いねん。それが演劇部辞めた理由やねん。私がすごくみんなに認めてもらいたがる人間で、誉めてもらうんが好きで、ちやほやされるのが好き、そんな人間やったとして、そやからって、それでいいってことにはならんやんか。そこが恥ずかしいねん。そこが厭やねん。完全な無名人になる覚悟がないのが自分で厭になったんよ。私も、ほかのみんなも、内心は何かでヒット飛ばしたいって思ってるやろ。そこがめっさ厭やねん」
例えば居間の床に寝転んで引き篭もりのフラニーに向かってゾーイー
「そやけど俺の気に入らんのはな、こんなもんシーモアもバディも気に入るわけないけどな、さっきゆうてたやつらの話する時のお前の喋り方や。つまりな、あいつらが象徴してるもんを軽蔑するんやったらわかるけど、お前はあいつらそのものまで軽蔑しとんのじゃ。個人的過ぎるんじゃ。フラニー、ほんまやで。
たとえば教師のタッパーの話した時もやな、お前の目普通ちゃうで。人殺すときみたいにぎらぎらしすぎや。光りすぎや。あいつが教室に来る前にトイレ行って髪の毛わざとばさばさのぼさぼさにしてくるゆうあの話。そら全部お前がゆうたとおり間違いないと思うけどさ、でもそんなもんお前に関係なくないか?あいつが自分の髪の毛をどうしたこうしたってええやんけ、あいつなにを気取ってんねん、ププ、ダサイやつやなー思てたら済む話やんけ。悲壮美なんですねーゆうてそんなもんいちいち演出しなあかんほど自信ないんやなあゆうて、同情したったらええんとちやうの。そやのにお前は、ええか、これだけはゆうとくけどおちょくってるんやないで。お前が喋ってんの聞いとっら、あいつの髪の毛自体が、なんかお前の仇みたいになってて、それはちゃうやろ。んでお前がそれをわかってるっちゅうのがもっと気に入らんわ。
あんな、フラニーな、制度を相手に戦争でもおっぱじめたろかゆうんやったら、頭ええ女の子らしい鉄砲の撃ち方を、せえや。敵はそっちやろうが。あいつの髪の毛がどないしたとか、ネクタイがどうしたとか、んなもん関係ないやろうが」
出版しないことはいいことだ、僕は僕自身の喜びのためだけに文章を書いている、ってサリンジャーがどこかで言ってて、読めるのか読めないのかわからないけど、でもいまもどこかで書かれてるかもしれない小説のことを文章のことを思うと、それだけでいいような気持ちにもなった。それは公式には最後の本になってるハプワースを読めばとても戸惑うことも関係していて、だって誰もいないんだもの。本人たちも退場して、そこにはもうシーモアとサリンジャーの思念の問答しかないのだもの。書き言葉がこんな事態を連れるなんてな、すごいことだな、でもな、と読んでるあいだ、これもまた少々淋しい気持ちでいたのだった。ハプワースは、つらかったな。とても大事な本だけど、本を閉じたときに本当に何かを閉じてしまった気になったよ。
コメント依頼がいくつかきたけれどうまく答えられなかったな。どうなんだろう。何にどこに影響受けたのか、どこか小説家として優れているとあなたは思うか。質問の意味はわかるんだけれど、何にもうまく言えないや。うまくわからない。でもわたしはシーモアがとても好きで、わたし、ほんとにシーモアが好きだったな。初めから死んでる人だったけど。
思えばすべてはバナナフィッシュ。シーモアが頭を撃ち抜いたところから始まったのだけれども、いまサリンジャーが死んでしまって、それから本当の意味でシーモアが死んで、そういうことで、シーモアはいま、やっと、完全に、死んでいることができている。いよいよの本当のはじまりは、じつはここではなかったか。そういうわけでグラスサーガはいまから始まるのではなかったか。百年の孤独は一冊のなかで完全なそれをわたしに見せてくれるけれど、サリンジャーは自身と彼がうみだしたシーモアのふたりきりで、それを見せてくれている。だからいつだって挨拶は、こんにちはシーモア、ようこそサリンジャー、なんだけど、だけどやっぱり、さよならだ。
さよならシーモア。さよなら、サリンジャー。
投稿:by 未映子 03:48 PM [本] | 固定リンク
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