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2005.10.02
結ぼれ
・ ・・・・・・
病院に足繁く通っていたとき
悲しくて悲しくてどうしようもなかった
時計の数字は勝手に笑いやがるし
それぞれの数字が前の数字を追いかけあって
けども絶対に追いつかないので
それぞれが小さくおおぐるいしているのを
私がまいにち 責任をもって観察していた
人々の話し声は
まるでドラえもんの「声カタマリン」みたいに硬くて大きくて
私めがけてどこからでも飛んできた
私はいつもよけるのに必死
地面がちりちりゆれて発光してた
壁に刺してる青い街の写真がゆれて
鏡をみたら心臓が「わたしもうやめる、限界」
と口の中から懇願したり
私の腕を刺した蚊が可哀相で その蚊の母親を探してやりたくて
がんばったけど無理で自分を責めて腕を切った
せめて蚊に血をいっぱいあげたくて
病院の奥にいる人々は
目の周りを真っ黒にぬらして
誰もかれもが大変に苦しそう
ソファに座ってる赤いジャージに皮のジャケットの男の人は
よくみる顔
自分のちじれた汚い髪の毛を唇に挟んで
なんかを呪ってるようでそれは悲しい悲しい目をして
とってもなんか悲しそう
だけどもおたがい喋りたくはないのですから
わたしたちはかまわず 点々で
そんなこんなで月から金はあっというま
またまた診察の日はやってくる
お薬が切れるとだめだからね
病院へいってちゃんと続けることが我々にとっての大事なのです
ある日
病院へむかうある日
私はすこぶる気分がよくて
目の回りにいっぱい赤いお化粧をした
おでこのあたりも赤く塗って
鼻の際まで真っ赤に塗った
それを見た斎藤くんはぎょっとした
そう
病院へ行く日は斎藤くんが仕事を休んでいつもついてきてくれたのです
ぎょっとした斎藤くんをみて私がぎょっとした
なんでなんでなんでそんなかおでなんでなんでそんなかおしてわたしをわたしをみるんなんで
それからすごく悲しくなった
それから怒りが津波となってからだをさらってのみこんで
死んでしまいそうになった
私は気分がよくって
せっかく おめかししようとお化粧したのに
ぎょっとした斎藤くんをボコボコと殴って責めると
斎藤くんは「最高にかわいい」といってくれ「だいじょうぶ」
顔のほとんどが真っ赤な私を自転車の荷台に積んで
中目黒への坂道をじゃーっと下っていった
先生は「今日はすごいね」と目を丸くしていったが
斎藤くんは「最高にかわいい」といったので
少し悲しくなりかけたが私はそれには動じなかった
診察はけっこうハードで
診察といってもべらべら ぽつぽつ お話するだけ
では何がハードかというと
思い出の出方がハードであり 先生の目の動きがハードであり
先生の話の切り上げ方がハードであり
そして一番はやっぱり蘇る匂いと子供の声がハードなのだった
小さいけど大きい 何もかもが
ああ あらゆる時制の 大ぐるい
帰り道 私はうつむいて「もういかんとく」といった
斎藤くんは「そんなんいうな、がんばろう」といった
「だってこんなん続けたってしゃあないやんか、
泣いてるだけでいつまでも弱いだけや、
見捨てられ不安症とは先生も治らんてゆうたやんか」と叫ぶと
「あほか、よくなってる、だいじょうぶや」といった
病院に来ると帰り道 自分が本当に情けないどうしようもない
なんの処置もない人間に思えてしまうのです
よく知らない人に話を聞いてもらうことのいやらしさ
そのくせ話し出すと止められなくなる都合のよさ
狭い部屋で開放されたと勘違いする自意識の
その お目出たさ
私は情けないのと悔しいのと
自分のことがもういやだと思う気持ちとで興奮して
人々が行き来するところで私は
自転車をほうり投げて泣き出してしまった
ををーんと泣くと斎藤くんは
「おなかが減ってるからや」といって自転車を拾った
私はパンが好きではないけど
すぐ近くにあったので「あそこにしよ」と
フレッシュネスバーガーに連れていってくれた
パンのことはよくわからんから斎藤くんが頼んで
私は来たものをどきどきしながら食べた
顔が真っ赤なので人は私の顔をちらちら見ていた
指もさされた
私は急に心細くなって 下を向いてると
斎藤くんが「これ飲み」といってなんかをくれた
「私がこんなんで恥ずかしいやろ」ときくと
「どこにいってもすぐわかるからええわ」といって笑った
パンはすっごいおいしくって
「おいしい」というと
斎藤くんはすごく嬉しそうだった
そして
「今度から病院に来たら、
帰りにはいっつもここに来るって、決めようか」
ってにこにこ笑って私にいった
私はそれを聞いて聞いて
悲しいやら嬉しいやらで 涙でパンがもろもろになるまで
泣いて泣いて泣いて泣いた
・・・・・・・・・
投稿:by 未映子 12:14 AM [心と体, 詩] | 固定リンク
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